宝彩有菜の「人生百科」
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	（１４）　「筋ジストロフィー」の受容について ＜筋ジストロフィーの障害受容ができない。＞ 人生はもっと奥が深いのです。今回は魂レベルの話です。 ---------------------------------------------- 「大関さんと筋ジストロフィー」 宝彩有菜 (c) Alina Hosai  , 2001 (All right reserved ) ---------------------------------------------- 「大関さん、また、そろそろ娑婆に帰られるのですか？」 と出国管理事務所の管理官が、ファイルを小脇に抱えて事務所から出てきまし た。 　 大関さんと呼ばれている男は、K-14号のことで、前回の娑婆での姿が相撲の大関だっ たの で、 ここでは、皆からそう呼ばれています。 でも、ここでは、みんな魂の玉ですから、大関さんと呼ばれる男が大関の格好 をし ているわけではありません。 また、実際は、男か女かもわかりません。年齢ももちろんありません。 魂ですから、誰の魂も、何の穢れもない、まったき丸のエネルギー体です。 ここは、娑婆から帰ってきた魂がしばらく休息をするところです。 「ああ、そろそろ、ここにも飽きてきたからね」 「そうですよね。ここには、何もドラマがありませんからね。ただただ平和で 眠いだけ」 「あはははは、まったく」 「で、大関さんは今度はどんな人生がお望みですか。お相撲さんの前は、確 か、野 球選手で、その前が、飛脚でしたよね。また、スポーツ系でいきますか。 サッ カーなんか流行ってますよ。行き先ファイルも探せばたくさんあります」 「いやー、もう、スポーツ系はやめておきます。十分堪能したから」 「そうですね。結構それぞれの人生で修行もすすんでますからね。じゃぁ、大 関さん、今度はどんなジャンル、どんなシチュエーションにしますか」 「そうですね。なんと言うか、こう、戦いとか、自分を鍛えるとかじゃなく て、なんかこう、しみじみと心が通うっていうんですか、人間の優しさとか、 温かさとか、信頼とか、涙とか、なんか、そんな事を深く今度は、まず体験し たいですね。そして、そのことをなんというか」 「ほう、ほう、なるほど、なるほど。でも、なぜそう思うのですか」 「だって、スポーツ選手というのはですね、毎日が戦いですからね。人に勝つ のが仕事です。同僚といえども敵ですから、足のひっぱり合いをするのです。 相手が怪我をしても、ことばではお気の毒って言ってますが、心の中ではラッ キーって喜んでるんですからね。だから、人間らしい心が通うなんてことは、 あまりなかったような気がしますよ」 「そうですか。でも、面白かったでしょ」 「ええ、自分の体を鍛えるっていうのは、結構面白かったですが、でも、ずっ と力をキープしようとすると、並大抵の努力じゃありませんからね。いつも、 筋肉痛がするくらいトレーニングをしなければ、いけないんです。それに、ワ ザもあるし。とにかく、一日中、体を痛めて、それでなんとか維持できるわけ ですからね。辛いといえば辛い」 「痛めるって鍛えるってことですか」 「そうです。で、食うだけ食って、バタンキューって寝る。これの繰り返しで すから、まぁ、本も全然読まなきゃ、難しいことも何も考えませんでしたね。 考えてみれば。薄っぺらい人生だったような気もしますね。肉体的には遊べた と思いますが、精神的にはね。今度は心が・・・」 「そうですか。分かりました、分かりました。では、大関さんの希望に合うよ うな ファイルを探して来ましょう」 と出国管理官は、事務所に戻って違うファイルの束を持って来た。 「今あるのは、これくらいですね」 大関さんは、管理官が運んでくれたファイルを一つ一つ丁寧に読んでいます。 ここは、時間は無限にありますから、どんなにゆっくりしてもいいのですが、 人気のある行き先は、すぐになくなってしまう可能性もあります。 まぁ、ハローワークの求人広告みたいなものです。人気のある行き先はすぐに 誰かに決まってなくなってしまいます。 ついでに、ここのルールを説明しておきます。 娑婆に出て行くときは、出国の申し込み用紙に、今回はこれこれの勉強をしに 行きますと書きます。 大関も行く先が決まれば、テーマを書かなくてはなりません。 と、いうか、まず先にテーマを決めて、そのテーマ実行するのに一番効果的な 両親のもとに誕生しようとするわけです。 このもっとも良い状況の選定には、 出国管理官が手伝ってくれます。 そして、ここからが難しいのですが、ゲームのポイントは、行った先でいか に、自分の勉強課題を思い出してしっかり勉強して帰るかです。 多くの人が自分の掲げたテーマを途中で忘れてしまって、勉強が何もできない まま一生を終わります。つまり、成長しないままここに帰ってきます。 そうすると、ランクは上がりません。次に行くべきところを選ぶ自由度も上が りません。 逆に、自分の掲げたテーマをしっかり思い出して、しっかり勉強してきた魂に は、次の選択の自由度があがるというご褒美があります。 そうなると、ですか ら、次回、イチロー選手になるのも、中田英寿になるのも自由です。 大関は、ランクが上ですから、今回はどんなファイルも自由に選ぶことができ ます。マイケルジョーダンを選ぶのも可能です。 でも、今回はテーマが違いま す。 その大関さんがファイルを一つ選びました。 「これなんか、どうでしょう」 「あはははは、さすがですねぇ、大関さん」 「なにが、さすがなんですか。管理人さん」 「いや、これはめったにない掘り出しものですよ。よく見つけましたね。最近 来たばかりのファイルですし、なかなかこのような条件が揃ったのはありませんからね。これなら大関さんのテーマの勉強はばっちりですよ」 「ほう、そうですか」 「そうです」 「管理人さん、ちょっと確認しますが、この筋ジストロフィーというのは、人 にうつるんですか」 「いや、遺伝はしますが、うつりません」 「なら、安心だ。うつるんじゃ迷惑ですからね」 「あははははは、迷惑をかけるってことがどういうことなのか、助けてもら うっていうことがどういうことなのか、それもしっかり勉強できると思います よ」 「そうですか。今までの人生の正反対ですね。誰かを信頼しないと生きていけ ない。弱い弱い自分」 「そうですね。大関はいままで、弱点を見せるとやられるって人生だったです からね。正反対といえば正反対ですね」 「で、ここに生まれると、ちゃんと筋ジストロフィーになれますよね」 「ファイルのデータから言えば、ほぼ確実ですね。まず、間違いないでしょ う」 「じゃぁ、今回はこれで行きましょう」 「はい、かしこまりました。では、この申し込み用紙に、勉強のテーマを書い てください」 「はい、分かりました」 と大関は申し込み用紙に、今回のテーマを書いています。 「あのー、管理人さん」 「はい、何でしょう」 「今までの人生は、簡単だったんですが、今回は難しいです」 「それは、そうでしょう。これは相当レベルが高い魂しか選べませんからね。 ヘレンケラーとか、乙丸さんとか」 「いやー、私はそこまではいきませんが、とにかく、人間の優しさってもの を、自身で体験して、そしてそれを・・・・・」 「ああ、分かってます、分かってます。私に言わないで、そこに書いてくださ い」 「あっ、はい」 と大関は力強い字で書いています。 「ねぇ、管理人さん」 「はい、何でしょう」 「これって、書いたことを忘れちゃいけないんですよね」 「そうです」 「でも、オギャーって生まれたら、綺麗さっぱり忘れるんでしょ」 「そうです。誰もここでのことは覚えていません」 「それで、どうやって思い出すんですか」 「おやおや、大関さん。もう、何度もやっていることじゃないですか」 「でも、毎回不安なんです。特に今回は、思い出さなかったら、どんどん地獄 に行くような気がしますから」 「大丈夫です。思い出す時期になったら思い出します。自分のテーマはこれ だったんだ。だから、この親のもとに生まれてきたんだって。この人生は自分 で選んだのだったって」 「でも、そう思い出せればいいでしょうが、思い出さなかったら迷いそうです ね」 「あはははは、大丈夫です。迷ったら迷ったで、導いてくれる人に出会います から」 「どうやったら、出会えるのですか」 「ですから、迷ったなぁと思えば・・・・」 「ふーん、でも、今聞いたことも忘れるんでしょうね」 「まぁそうです。みんな忘れます。だって、大関さん、こんなこといちいち覚 えていたんじゃ、ゲームが面白くないでしょ」 「まぁ、そうですね」 「とにかく、大関さん、これは掘り出し物ですから、それだけはお忘れなく」 「あはははは、お忘れなくね」 「あはははは」 ということで、大関は、今回は高等な筋ジストロフィーを選びました。 大関さんの書いたテーマ、さぁ、それは大関さんしか知らないことですから、 ここには書けません。 魂は、肉体という着物を着ます。 豪華な服もありますし、貧しい服もあります。 でも中は同じまったき丸のエネルギー体です。 あるいは、魂は、自分で好きな自動車を選べます。 スポーツカーを選ぶのもいますし、軽トラックを選ぶのもいます。 スポーツカーは確かに早いのですが、人生の機微が分かりません。 軽トラックは確かに遅いのですが、人生の色々な触れ合いや人情の嬉しさを感 じることができます。 どちらが良いともいえません。 良い悪いではなく、テーマを掲げて、それに適する車を選んでいるだけなのだ ということです。 しかも、自分自身が選んでいるのです。 たとえ、どんなボロ車でも、掲げたテーマを勉強するには、この車が一番適し ていると選択しているわけです。 でも、なかなかそれに人は気づかない。 というか、忘れてしまっている。 ですから、人生で一番大切なことは、この自分で掲げたテーマを思い出すこと です。 すると、この世のすべての事柄が納得できます。 「ははーん、なるほど、そういうことだったのか」 と嬉しくなります。 自分の魂がはっきり自分でわかるようになります。 自分は肉体ではなかったのだと、もちろん分かります。 いわば、悟りです。 つまり、この人生は悟るためにあるのです。 良くわかりませんが、たぶん大関も申し込み用紙に、 このあたりのことを書いたのだろうと思います。 さて、それが何であったか・・・・・ 宝彩有菜
	（宝彩有菜） 　© Alina Hosai  , 2001 (All right reserved )

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